精神分析過程

精神分析過程
精神分析過程ドナルド メルツァー Donald Meltzer

金剛出版 2010-11
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アメリカで自我心理学の教育を受けながらイギリスに渡り、メラニー・クラインの教育分析を経てクライン派になったドナルド・メルツァー。後に美学を分析用語で読み解く独自路線へと突き進み、主流派から無視されるようになるヘンテコな人ですが、なぜか昨今邦訳されている。その彼が1967年に書いた古典的治療論。
いくつか補助線を引くと、まずクライン自身、1925年「症例ディック」以降、今なら「自閉症」と診断される子どもたちのセラピーをしてきた事実があります。クラインの理論は、自閉症の子らのイメージ世界を描いている。でも彼女は、その世界像を自閉症に限らず、どんな人でも根底に持つと考え、実際に後の分析家たちが成人の精神障害に応用し、それなりの成果を挙げてきました。つまり、誰もが持つ原初的な心性が、なんらかの要因でうまく発達できず、本来の原初性のままで表現されているのが自閉症。確かに自閉症の中には、産婦人科の都合で陣痛促進剤を使い、臨月を待たず生まれてきたケースありますね。母親の心音を聞きながら育つはずが、機械音の保育器に入れられ、どれだけ心細いか。それが、後で不都合があると「障害」とされるなんて辛い話です。
次に、精神分析の発達理論はフロイトに由来します。口唇期→肛門期→男根期と展開する。これが自我心理学では「基本的信頼感の段階→自律性の段階→自発性の段階」と読み替えられ、一般受けするように解毒化されるのですが、クラインはそれを嫌う。自我心理学のやり方は知性化に過ぎず、子どもの持つ体感に肉薄できない。だから敢えて「オッパイ、ウンコ、おチンチン」といった子ども言葉を面接場面で使った。ところがメルツァーくらいになると、これらが「乳房・糞便・ペニス」という専門用語として扱われる。だから、妙に気取った言い回しでオッパイやウンコの話をする時代になっています。こういうスノッブなところはアホですね。
あと、乳幼児期の世界をメタファーに使いますが、実際の生育歴とは関係ありません。クラインもメルツァーもクライエントの生育歴には関心がない。そうではなく、プレイセラピーで分析家がする解釈を「授乳」に喩え、面接の終結を「離乳」に見立てるのがクライン派です。分析家が「オッパイ」となりクライエントの体感に言葉を与え、クライエントは自分の中に溜まる不快感を「ウンコ」として分析家に投げつける。そのプロセスの中で自他の分化が進み、自己の身体イメージが形成され、治療的抑うつ(治療者イメージの内在化)を経て、分析は不要になる。大筋はそこあたり。個人的には、授乳に見立てるより、面接室自体を胎盤と見るほうが合いそうなんですけど。「生まれ直し」に読み替えたほうが、分析プロセスはきれいに筋が通る。
ただ、メルツァーの解釈はエログロでキモいです。これを「美的」と呼ぶ感性には付いていけないな。