自己愛と境界例

自己愛と境界例
自己愛と境界例ジェームス・F. マスターソン 富山 幸佑

星和書店 1990-01
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最近、心理療法の諸技法を「グー・チョキ・パー」に分類することに凝ってます。たとえば強い不安に苛まれ、何かに固執してしまっているタイプの人(グーの人)が来たときは、パーの対応。何でも包み込むような、ビオンが「コンテナー」と呼ぶ対応ですね。これが向いてるんじゃないか、と。反対に、枠付けが持てず混乱してるような人(パーの人)が来たときは、チョキの対応。物事を明解に切断していく「切る機能」のチョキが合いそう。理屈っぽくて不適応を起こしてる人(チョキの人)には、こっちは粘着質気味に頑固な「グーの応対」が長期的には良さげに思います。なんか信用してもらえるようになる。
そんなジャンケンのうち、「チョキ」に便利なのがマスターソン。マスターソン自身はパーの人、つまり、情緒的で母性的な方だそうですが、技法論はチョキです。分かりやすく理詰めで押していく、実践的な精神分析。2つほどポイントを押さえれば、明日からでも臨床に活かせます。
1つは「ユニット」という考え方。これは、問題行動(行動化)を患者一人のことと考えない発想。誰かもう一人、セットになっている。患者の行動化に対し不安になり、それを止めようとする「誰か」がいる。そして、その対処が今度は患者自身を不安にし、また行動化を産むという悪循環がある。これを「ユニット」と呼びます。不安のキャッチボールを二人の間でしている。それが続く限り、問題行動は収まらない。システム療法だと「偽解決ループ」と呼ぶかな。このループがセラピストとの間で始まりそうなとき、セラピストがきちんと「切ること」が出来れば、クライエントは面接に希望を感じてくれる。そこが始まり。まあ、セラピストは焦るな、と。
もう1つは「明確化と直面化」。「不安→行動化」の条件反射に対し、不安には明確化を、行動化には直面化で対処する。漠然としている不安には、それが具体的にどういうことか明らかにしていく。不安を投げ捨てたくなっているクライエントに「ちょっと待て」とストップを掛け、その不安をよく見つめてもらう。ワンクッション置く。具体的な事実に落としていくと、不安になって仕方ないにしても、それ相応の不安になるだけでエスカレーションせずに済む。そして行動化のほうには、それが「不安への対処」だということに理解を示しながら、「もしそれをすると、その後どうなるだろう?」と時間軸を進める。それが直面化。反省させるというより、イメージすることで「行動化が済んだ状態」にシフトしてもらう感じかな。済んだことになってるから、行動化自体は起こらない。イメージの中ですでに「やっちゃってる」わけだから。
この「明確化と直面化」を組み合わせば、日常生活で「うまく不安に対処できたとき」が出てくる。出てきたら、それを増やしていく。それがマスターソンの戦略です。まあ、万能ではないけど、パー・タイプの人には結構良い線行きますよ。