リハビリテーション身体論

リハビリテーション身体論 認知運動療法の臨床×哲学
リハビリテーション身体論 認知運動療法の臨床×哲学宮本省三

青土社 2010-06-22
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イタリアのカルロ=ペルフェッティが考案した認知運動療法。それを精力的に伝導している宮本先生の最新刊。脳卒中などで身体麻痺が生じたとき、従来のリハビリでは完治できなかった障害でも、この認知運動療法なら、あら不思議。たちどころに治してご覧に入れましょう。
もちろんそんな過剰広告ではなく、謙虚な論文集です。これまでのリハビリは、歩けなくなった人の足をマッサージしながら、負荷を掛け屈伸してもらい、筋力を付けていくアプローチでした。歩くための動作をスモールステップで分節化し、それぞれをシェーピングしていく技法。初めは立ち上がることを目標に、立ち上がれたら一歩前に進むことから始め、それを二歩、三歩と増やしていく。その延長に「歩く」があるという考え方です。
ペルフェッティの認知運動療法はその逆。感覚のほうに注目します。理学療法士が患者さんの足を動かしてみて、その「動いている感覚」を掴んでもらいます。標的にしているのは筋力ではなく、思い浮かべている「身体イメージ」。「歩く身体」のイメージを作り上げることが出来れば、その患者さんは次の瞬間、普通に歩くことが出来る。考えてみれば当り前で、倒れる前は普通に歩いてたわけです。筋力が無くなったのではない。脳に傷を負って「身体イメージ」が結べなくなっただけのこと。ターゲットはそちら。
喩えてみれば、チェスみたいなものですね。従来はチェスのコマが何で出来ているかを研究していた。石でできているか、木でできているか。大きいか、小さいか。動かしやすいか、動かしにくいか。そして、大きくて動かしやすい「筋力」を作れば、チェスが出来ると考えていた。でもチェスは、コマが何であっても構いません。大事なのは、コマを動かしていく戦略。実際の棋譜で表現されるほうが「チェス」なのです。だから試合の進め方、攻め方、守り方に練習を割いてもらう。それが「チェスが出来るようになる」に必要なこと。分かってみれば、なんてことないセレンディップの3人の王子。リフレーミング。それなのに、宮本先生、難解な哲学者の論文を引用して、無駄に細かい議論をしてます。要りますか? 面白かったですけど。
心理学的にも参考になります。というか、馴染ある考え方。動作法しかり、解決志向しかり。イメージが身体を先導する。催眠暗示の時代から、心理療法はそういうことばかりしてきました。脳生理学がどれだけ進歩しても、それは「チェスのコマの材質」の話にしかならない。「チェスが出来ること」とは話の水準が違う。「チェスの試合」のほうを「こころ」と呼ぶのです。コマをいじくっても何も出てきません。騙されちゃいけませんよ。