言葉の誕生を科学する
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発声を学ぶ動物ってきわめてまれで、鳥とクジラとわれわれ人間しかいないわけです。鳥は空を飛ぶし、クジラは水の中にもぐるから、呼吸の仕方を意図的に制御する必要がありますからね。それに対してわれわれは、呼吸の仕方を意図的に制御する必要があるのかというと、特にないでしょう。ではなぜ、われわれは発声の学習ができるのか。
こういう問題意識が良いなあ。たとえばサルの赤ん坊は泣かない。産声を挙げない。ところがサルの一族である人間は泣く。これは不思議なことです。だって、泣き声を挙げれば、肉食獣に見つかって餌にされてしまう。とても危険な行為。それを人間の子どもは平気でする。それはなぜなんだろう。
そうした思いつきのような疑問から仮説物語を作り、それを実証する調査をする。鳥の鳴き声は、前世代の師匠鳥の鳴き声から部分的に拝借し、それぞれの若鳥が自分なりのオリジナルの歌を歌っている。その中で高度なコード進行が出来る鳥ほどメスからもてるそうです。そして、いろいろ高度な歌い方を極めているうちに、自分一人で歌ってるほうが面白くなって、一生独身のオスもいるそうです。良いなあ、本末転倒で。ほんと面白い。
言葉はそうした「歌」から生まれてくる。そして、言葉が生まれたことで、人は「時間」を発見し、「死」を意識するようになる。文学が「むかしむかし」で始まるのは過去の死者たちに言葉を与える鎮魂歌だからだ、とか、段々と考察が飛翔していく。岡ノ谷先生が美しい小川さんを前にして、「科学」という名の「求愛の歌」を歌ってるように見えるのが、この対談に潜在するメロディ・ラインですね。本人たちは気づいてないけど、鳥たちの話をしながら「鳥たち」になっているのが良いです。
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