方法としての動機づけ面接

方法としての動機づけ面接 (面接によって人と関わるすべての人のために)
方法としての動機づけ面接 (面接によって人と関わるすべての人のために)原井宏明

岩崎学術出版社 2012-05-10
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ミラーの原著を読んだときはそれほど感動しなかったが、原井先生のこの本は素晴らしい。動機付け面接(MI)を使ってみたくなった。最先端のエビデンスである。
原井先生は、山上敏子先生に行動療法を習った第一人者。だから、行動療法に対する考え方も、ちょっと斜に構えていて柔軟に運用している。山上流とでも言うべきか。ところが、動機付け面接はその出自が認知行動療法とは違う。失敗したエビデンスから出て来てます。アルコール依存症患者への認知行動療法。その臨床研究をミラーが行ったとき、対照群として「何も指示しない面接」を置くわけですね。同じペースで面接には来るけれど、行動療法的治療を受けないグループ。予想上では当然、行動療法を受けてるグループの予後が良くなるはずだった。ところが実際には「何も指示しない面接」のほうが社会復帰しやすかったのです。しかも、それまでは「アルコール依存には断酒しかない」とされていたのに、このグループの人たちは飲酒量が適度に減って、仕事も続くしトラブルも起こさなくなる。行動療法の面目が丸つぶれになった結果でした。
「普通」の臨床研究だと、実験デザインを見直して、(よくあるように)対照群のほうをもっと無能な面接方法に変えるのでしょうけど、「効果があったんだから良いじゃないか」ということでミラーはこの面接法を中心に研究を始めます。何も指示しない面接。要するに、非指示療法。ロジャーズのクライエント中心療法と似てくる。これがすさまじいなあ。クライエント側の要因ではなく、セラピストとクライエントの関係性に焦点が移ってくる。
「動機付け」と訳されてるけど「付け」は間違いです。クライエントから「やる気」を引き出す。そういう意味。アドラーの「encourage」に似てるかな。もともと「幸せに暮らしたい」という想いをクライエントは持っている。それに気づいてもらえば、自分で変わります。自分で変わるから、自信になるし、何のためにそうしてるかの自覚もある。ロジャーズみたいな「自己治癒力」という、余計な概念が入ってこない。理論がスッキリしてます。そして、面接の手続きもハッキリしてる。しかも「測定」も出来ます。関係性を5つの次元で測る。喚起・協力・自律・方向付け・共感。予後を予測できる因子がこの5つ。これもロジャーズの三原則に似てます。そして、ちゃんと五件法で測るための目安が定められている。面白い。この5次元をセラピストの側から調合していく方法論も組み立てられている。さすが、行動療法家。
ただ、実践例として原井先生が自分のケースを挙げて、質問の組み立て方の解説を入れてるんだけど、原井先生、腹黒い。洗浄強迫の人にウンチを触らせようとしてます。ノン・ディレクティブなのに、無茶させてる。しかも自発的に「触ります」と言わせてるから、悪どい新興宗教の勧誘かと思いました。例があまりでしょう。でも、今までのロジャリアンが「何でも受容」だと勘違いしてたところを、この例は特異的に差別化してます。受容するのは、クライエントの健康な部分。「症状がしゃべってる部分」まで受容してたら、結局はクライエントを援助することにならない。「望んでないことを症状に言わされてる」とセラピストが感じ取れるかどうか。ここあたり、ニワカだと失敗しやすいポイントですね。