エビデンスにもとづくカウンセリング効果の研究

エビデンスにもとづくカウンセリング効果の研究―クライアントにとって何が最も役に立つのか
エビデンスにもとづくカウンセリング効果の研究―クライアントにとって何が最も役に立つのかミック クーパー 清水 幹夫

岩崎学術出版社 2012-02-01
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カウンセリングは、本当に役に立つのだろうか。2008年に出されたエビデンス研究の集大成。結局1975年にマーティン・セリグマンが出した結論から変わってない。「どの技法も、医師や神父が行うアドバイスより効果があるが、心理療法間の差異はほとんどない」。だいたいが7割の改善率になる。精神分析だろうが、行動療法だろうが、トータルすると似たようなもの。その代わり、同じ流派内でも、8割超えるカウンセラーと3割に満たないカウンセラーが必ずいる。じゃあ、その違いは何か。「うまいセラピー」の共通因子を探し求めるのが、この30年間の動向だった。世界のね。日本から発信された論文が一本も取り上げられていない。取り残されてるねえ。
で、この本の中で共通因子が並べられ、それを扱う研究が挙げられていく。たどり着くのは、はい、「普通のカウンセリング」です。傾聴し共感して、良好なラポールを築くこと。これはすごいなあ。ロジャーズがウィスコンシン大学病院で調査した、最初の研究と同じ結論になってます。ロジャーズ、すごいよ。「あの三原則は、ボールをよく見てシャープにバットを振ればヒットになる、と言ってるのと同じやし」と河合先生も言ってたなあ。正しいけど、それをどうすれば実行できるかは各セラピストに任される。任されるから、難しいんだよね。
この本の良いところは、各因子を具体的に定義していくところ。定義しないと調査できないから当り前。たとえば、自己開示。した方が良いか、しない方が良いか。その調査を進めていくと、その場でのセラピストの気持ちを伝える「関与」と、セラピストの過去の体験を伝える「開示」は別物だと見えてくる。そして、予後の良いカウンセリングでは「自己関与」が、一時間内に三回、時間にして15秒間行われていると分かる。おお、そうなのか。「聞いていて、私も淋しく思いました」みたいな自己関与。なるほど、やってるやってる。あれを一分間以上やってたら、うるさいだけだもんなあ。簡潔に。でも、気持ちは伝えていく。
あと、転移分析の正しい使い方とか、強迫症状には逆説処方が効果的とか、参考になる研究が載ってます。認知療法エビデンスを追求するあまり、自分たちの理論通りにはセラピーが進まないことを発見してしまう下りとか、ちょっと笑えた。もちろん、そのことで理論がさらに練り上げられてるんだけど。いずれも、三原則を具体化するために、それぞれ技法という形で磨いてきてるんだということが分かる。それは「関係性」に重点を置くこと。しかも治療関係は、たいてい一度は悪化し、そのあと修復される経過を取るものらしい。個人の無意識を扱うのでも、条件付けをするのでもない。「うまいセラピー」はそれ自体、対人関係の成熟を援助している。
そうそう、90%のカウンセラーが「自分は平均よりも上手いほうである」と答えてるんだって。どんだけ自分に甘いんだろうね。この本は、独りよがりなカウンセリングをしないためにも、読んでおいた方がいいよ。原書がイギリスでの出版なので、軽く認知分析療法(CAT)に触れられていて、ちょっと気になった。そろそろ日本に紹介してくれる人、出てこないかな。