マイクロカウンセリング―”学ぶ‐使う‐教える”技法の統合

マイクロカウンセリング―"学ぶ‐使う‐教える"技法の統合:その理論と実際
マイクロカウンセリング―アレン・E・アイビイ 福原 真知子

川島書店 1985-12
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カウンセリングの古典。アイビーのマイクロカウンセリングです。意外と若い人たちが知らないので驚いた。カウンセリングと言えば、まずカーカフのヘルピングかアイビーのマイクロ。これを骨格に、それぞれ諸派の技法で肉付けしていく。それが修得の近道だと思うんだけどな。
マイクロは、もともとカウンセラー養成の基礎となることを目指した理論です。1970年代に、当時の精神分析・行動療法・クライエント中心療法などの諸派を網羅し、共通要素を抜き出して一つに体系にまとめ上げている。その後展開した自己心理学やシステム療法の知見が抜けてる古臭さを感じますが、それでもカウンセリングの本質をつかむために外せない心理療法です。ところが、今の心理学の教科書では出てこない。出て来ても、技法のピラミッドの絵が解説してあるだけ。これじゃあ、出来損ないの折衷派にしか見えません。結局「なんたら派」の布教活動に忙しくて、大学の先生は「カウンセリング」をしてないんでしょうね。専門性より先に、普遍性のほうを学生に教えればいいのに。だから、即戦力にならないのが現場にやってくるんだよな。
アイビーの慧眼は「シンプル・ストラクチャー」だと思います。どの心理療法も、構造という観点から見れば、一つの構造しか持っていない。ただ強調点が違い、そのため特化してる技法に差異があるだけ。その基本となる構造を見極めれば、自分が今何をしているか、把握しやすい。
では、その「構造」とは何か。たぶん、アイビーの中でカウンセリングは、「どうすればいいですか」というクライエントの問いに答える仕事なんですよね。でもそれは、カウンセラーが答えることではない。「どうすればいいか」という、問いが出てくるクライエントの状況に着目しています。行動を問うのは、「どうなればいいか」の目標が見えていないから。目標が見えてないのは、「何が問題なのか」の定義が不明瞭だから。問題が不明瞭なのは、「いま何が起こってるのか」の状況から目を逸らしてるから。だからカウンセリングは、情報収集→問題定義→目標設定→課題との対決→般化の順に進む。まるでビジネス書のように明解です。
ただ、この作業はクライエントにとってしんどい。そのしんどさを分かち持つ覚悟がカウンセラーにも問われます。そこがPAS。Positive Assets Search。クライエントの持っている「肯定的な資質」を発見していく。この人ならではの「良さ」を見つけるごとに、クライエントは一歩前に進むことが出来る。もっと自分の「良さ」を知りたいという願望がクライエントに生まれなければ、そもそも目標設定なんて無理なのです。目標設定が出来るのは、その未来に「知らなかった自分の良さ」と出会える期待があるからです。クライエントの「出来ないところ」を数え上げても、何も前進しません。これ、「Assets」が良いんですよ。「いま出来てること」ではない。心理検査では測れないもの。「まだ開花していない資質」を見つけ出す目が、カウンセラーの「資質」だということ。そこにアイビーの哲学がある。そして、それは本当のことです。