赤ちゃんにおむつはいらない

赤ちゃんにおむつはいらない
赤ちゃんにおむつはいらない三砂 ちづる

勁草書房 2009-08-29
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津田塾大学三砂ちづる先生。女性は、本来どうあると女性として生きやすいかを研究している、本当の意味でのフェミニスト。理念じゃなく、実際の生活に密着している。その中で「育児」をテーマにしたのが本書。古老に尋ねる。東南アジアに調査にいく。保育園で観察する。どこまでも「実際」に密着するスタイル。調査を積み重ねた報告が並べられることで、本書はやたら厚い。読むのがしんどかった。でも、今までの専門家の提言が、理論や実験に基づいているため、どれだけ現状と懸け離れたものであるかが浮き彫りにされ、導かれる結論は興味深く有益なものです。
今の子どもたちは三歳過ぎまでオムツをしている。それが「常識」とされてます。でも、時代を遡ると、二歳くらいが「オムツの外しどき」とされる育児書が散見する。さらに戦前だと、たいていの子どもは一歳を過ぎ、歩き始めれば自分からトイレに行けた。この違いはなんだろう? 発達心理学者は「今」のデータを集め、平均値を取り、それが太古の昔から不変であるかのように語る。ウソなんです。「今」が異常だから。どうやら、アメリカの育児理論を輸入したためらしい。トイレット・トレーニング。トレーニングだから、子どもにストレスになる。充分な括約筋の成長を待って、それに合わせ子どもを指導していくべきだ、と。そう専門家は言います。それまでの日本人は「トレーニング」だとは思ってなかった。便意があるから、おまるに座る。それが自然なことと思っていた。「科学的にそれには根拠はありません」と専門家は否定し、アメリカから紙オムツが輸入され、使われるようになる。排泄しても、吸収が良くサラッと感がある紙オムツ。赤ちゃんにとって快適。ママも育児が大助かり。おかげで、子どもは自分の排泄をコントロール出来なくなる。母親も、自分の子の排泄が読めない。サラッと感があるから。漏らしてるのにサラッとしてる。でも不自然で、不快感は残る。自分をコントロール出来ているという自信が育たず、垂れ流してるから括約筋も鍛えられない。すると、子どもは落ち着きをなくし、ウロウロと多動になるそうです。可哀そうなことしてるなあ。
ADHDにしても、学習障害にしても、そもそも基礎となる運動能力が育っていない。オムツをして走り回るのは大変だからね。行動が制限される。廃用性退行。使われない機能は、段々と使えなくなっていく。ほら、たいていの日本人は英語が喋れないじゃないですか。それを「英語学習障害」と呼ぶかどうか。日常で英語を使う体験がないんだから、使えないのは当たり前。そんな「あなた」は「障害者」なのか。まあ、「英語脳」でないのは確かだな。
今の子どもたちは、紙オムツにくるまれ、自分の中の自然現象を制御する体験がスポイルされる。脳のシナプスが伸びる時期に、なんて貧弱な状況を与えてるんだろう。そして土台が育っていないまま、就学期を迎え「学習」が始まる。授業についていけない子どもは脱落していく。「専門家」に従ったから起こる悲劇。しかも診断名も用意されている。そうやって、どんどんアメリカのように崩壊してくんだろうな。「アメリカ」を目指してる限り、当然の結末だけどね。