自閉症論再考
自閉症論再考 (サイコ・クリティーク) | |
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まず、アメリカと違い、日本の精神科医療はドイツ医学の流れを汲むため「アスペルガー」のほうが知られていました。その後アメリカに留学していた牧田清志先生によって「カナー型自閉症」の概念が輸入されます。牧田理論は、自閉症を「精神分裂病(統合失調症)の亜型」と考えるところにあります。そして当時のアメリカの「精神分裂病は母原病である」という考え方とくっつけ、親の育て方に原因を求める。そこで牧田−平井論争が勃発する。アメリカの医学かドイツの医学か、という医学界の覇権争いがそこに投影され、やがてアメリカ医学優位の体制が出来上がる。自閉症の実情を見ての論争ではありません。当時日本で「自閉症」と診断された子どもの中には、てんかん波が脳波で認められた子もいた。でも、そういうデータを封じてまでも、「アメリカ医学のほうが偉い」という結論が押し進められます。
ところが70年代に入り、今度はアメリカで器質因説が主流になって来る。すると途端に器質因説一辺倒に雪崩れ込んでいきます。これは今でも残る「コミュニケーション障害仮説」ですね。とくに厚生省が自閉症治療の医療費負担を快く思っていないこともあり、「自閉症は医療の対象ではなく、福祉の対象である」という論点に移ってくる。器質因であれば治せない、と。自閉症を対象とした収容施設の増設が認められ、そうしたところには医療関係者はもう入っていかない。子どもたちは、ただ生きているだけの状態に押し込められ、そして歳を取っていく。
「それは違うだろう」。そう声を挙げたのが小澤先生です。医療にはまだ出来ることがある。たぶん原因なんて一人ひとり違う。何が出来るかは、その一人ひとりに会っていく中で考えていくしかない。至極真っ当な意見ですが、五月蝿かったんでしょう。京大から追い出されます。そしてローナ・ウィングのスペクトラム論が入ってくるまで、「自閉症」は医療から無視され続けました。確かに80年代は、「施設」にいる指導員の先生方がTEACCHを学び頑張ってましたけど、「医者」はいなかったなあ。つくづく「黒船」に弱い国です、日本は。
自閉症とは何か | |
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