ダンゴムシに心はあるのか

ダンゴムシに心はあるのか (PHPサイエンス・ワールド新書)
ダンゴムシに心はあるのか (PHPサイエンス・ワールド新書)森山 徹

PHP研究所 2011-03-19
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おもしろかった。ネズミの迷路実験なら学生の頃何度となくやったけど、ダンゴムシの迷路実験かあ。そんなこと、考えてもみなかった。やってみただけでも興味深いけれど、そこから出てきた結果の意外性に驚かされます。
信州大の動物行動学の森山先生。「心とは何か」を実験で示そうとしてるんだけど、初めに「心とは、隠れた活動部位である」と定義してから実験し、そしてダンゴムシでも証明できたから「心はある」としても、これ、実験の手続きが間違ってます。マッチ・ポンプです。定義が自分の実験の都合に良いように出来ている。自分で自分に騙されちゃあ、いけません。
でもやっぱり実験は面白い。どう進んでもすぐに袋小路にぶつかるように出来ている迷路。その中に放り込まれると、たいていのダンゴムシは行ったり来たり、ムダな反復行動を取ります。そう行動するように「本能」が出来ている。機械のようにプログラミングされていて、右でぶつかれば左に、左でぶつかれば右に方向を変えるだけ。ところが、そのうちの何匹かはその「本能行動」を繰り返すうち、おもむろに立ち止まり、やおら壁を登り始める。障害物を壁から水路に変えると、泳げないくせに、水に向かって飛び込み、向こう岸までバタ足をする。お立ち台があれば登ってしまう。勇敢というより、パニクってますね。なんか可愛いわ。予想外の状況に追い込まれると、今まで取らなかった行動が急に発現する。これを森山先生は「心」と呼んでます。
で、見たところ、まるでダンゴムシが思案して、問題解決を導いているように見えるので「知性」があると考えてしまいがちですが、それは違う、と。「そういう擬人化は良くない」としながら「でも、心はある」というのだと、それはそれで森山先生の擬人化でしょう。何を知性と呼ぶか、心と呼ぶかの違いだけ。でもダンゴムシに個性があるのが楽しいなあ。生真面目なのとパニクるのとがいるんですね。それを「平均値」で見えなくすること無く、その個体差を実験に組み込み、特徴を取り出していくストラテジーのうまさに感心しました。「なんとなく、差があるんじゃないか」なら誰でも言えるけど、「こうした状況で、こういうふうに差がある」と実験で示すのは難しいですもん。森山先生、才能があります。
こういう実験はもっと続けて、そして最終目標の「石にも心はある」までたどり着けたら、仏教の「無常説法」、つまり「無機質な物体にも仏性は宿る」を証明しちゃうことになりますね。でもそうならなくても、「心とは何か」なんてどうでも良いことで、ダンゴムシが愛らしく思えてくるだけでも、この本の価値は充分あります。「心」の籠っている本です。