こころの援助レシピ

こころの援助レシピ―家族の法則〈2〉 (家族の法則 (2))
こころの援助レシピ―家族の法則〈2〉 (家族の法則 (2))岡田 隆介

金剛出版 2005-06-02
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広島の児童相談所所長岡田先生。「戦略的家族療法」ってことになるかな。でも、ややこしい統合理論よりは本質を突いて心理療法を整理している。この原理さえ分かれば、どんな流派であれ経験値300%アップ。
じゃあ、その「原理」とは何かというと「仮説と対策」です。どんな家族も、いま直面している問題に対し、何らかの「仮説」を持っている。そして、その仮説に基づき、面接に来る前からすでに「対策」を取っている。当然と言えば当然。でも、それを知っているかいないかで、プロと素人の違いが生じます。素人は、自分の「仮説」に囚われ、自分が考えた「対策」を家族に押しつけようとします。いくら善意とはいえ、迷惑ですよね。プロはそんなことしない。家族の持っている「仮説と対策」をまず把握しようとする。
そして家族は、そうした「仮説と対策」で問題解決を図り、失敗している。だから相談に来る。となると、戦略は3つ。分かります? どんな心理療法も3つに分類できると言うわけです。単純に考えれば4つですけどね。でも外されるのは、その「仮説と対策」、どちらとも間違っていると突きつけること。それは素人と同じで、結局カウンセラー側の「仮説と対策」を押しつけることになるので、まあ、家族は受け入れてくれません。ご高説を拝聴して、二度と面接に訪れない。となると、残り3つ。
1つめは、家族の「仮説」を受け入れ、「対策」のほうに疑問を挟む戦略。家族はデータをたくさん持っているから、そうそう「仮説」はハズしていない。でも、良かれと思って取った「対策」があまり効果を発揮していない。「思った結果に繋がってないですよね」と確認すれば、別の「対策」を一緒に考える場が生まれます。これが1つめ。MRIの「Do Different」ってやつです。行動療法もそうかな。
2つめは、「仮説」に疑問を付けながらも、「対策」のほうは肯定してしまう戦略。やってる「対策」が症状をむしろ固定してしまっているとき、「この恐怖症はあなたの身を守るために必要ですし、そのために恐怖症を忘れない努力をされてるのは素敵なことです」と言ってしまう。症状処方って方法です。これはリフレーミングでもあるし、深層心理的な解釈技法でもある。心理屋にとって、どんな問題行動も症状も、それはその場の環境への適応方法です。「症状」は、主人のために貢献してようと努力してる。そのことを認めてあげると、「症状」は役割を果たせて安堵するので、あまり過激な発現をしなくなる。それが2つめの戦略。
3つめは、家族の「仮説と対策」、どちらも肯定してしまう戦略。仮説も対策も、実際のところ家族は意識せずに使っています。それを明文化する。ナラティヴのacknowledgeですね。「ほめる」だと誤解されてますが、語義に従えば「知識に加える」です。意識しながら使うのと、そうでないのとでは意味が変わる。実験的雰囲気というかな。日々の苦闘が、仮説を確かめるための「実験」として扱われる。検証して思わしくなければ、家族自身が「仮説」を変更していきます。何もカウンセラーが「仮説」を提案する必要なんかない。それが、3つめ。
問題は、どういうタイプの家族のとき、どのタイプの戦略がファースト・チョイスになるか。岡田先生の事例を見ると「傾向」がありそうだけど、でもそれもまた、各自が「実験」しながらコツをつかんでいくと良いかな。何をするにしても「失敗」と思わず、上手くいかないこともまた「データ」として自分の「仮説」に組み込めること。そうした態度に基づくアプローチが、本来の意味での「科学」だと思います。