知の編集術

知の編集術 (講談社現代新書)
知の編集術 (講談社現代新書)松岡 正剛

講談社 2000-01-20
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「千夜千冊」松岡正剛先生。昭和の思想界を牽引した雑誌『遊』の編集長。うーん、この人を形容する言葉が見つからないな。巨大な変人だと思う。博覧強記で、行動力があって、何にも縛られない。言ってるとことは信憑性に欠けるけど、そこを強引に押し通していくパワー。だから切れ味が鋭い。
そんな編集長が「編集」について分かりやすく解説してくれた新書なので、まず読みやすかったです。そして、何度も感動した。全然気づかなかったところに補助線を引いて、新しい見え方を演出している。すごいなあ。その「すごいなあ」の思いだけ残って、内容をまとめようと思っても、これ、内容ないですね。本書を通しての主張があるわけではないです。そうではない。マクルーハンの「メディアはメッセージだ」と同じで、「編集がメッセージを産み出す」という当り前のことを確認できただけでした。そして、それで充分。コンテンツなど、オマケに過ぎない。
ラカンが夢の作業として挙げた「圧縮」と「置換」。それが松岡先生では「要約」と「連想」になります。人間の知性が、生身のデータと向き合い、それを情報化するとき、取れる手段は限られています。だから、それに通暁することが人間にとって唯一できる「抵抗」となる。情報の渦の中で、自らの主体性を失わないための「編集」。それが、工業化社会が終焉した後にきた「情報化社会」と戦うすべです。第一人者だけあって、松岡先生の言葉にはその力が宿っています。後学の参考になります。
たとえば、子どもの遊びを分類するとき、いくつのタイプに分けることが出来るか。別にクラスタ分析するわけじゃない。単なる直観で「ごっこ」「しりとり」「宝探し」の3つに分けてしまう。本当にその3つでいいかどうかの妥当性なんて確かめない。で、分けたらそれで話が移っていくんだけど、遊戯療法を知っている人間から見たら、この3つは鋭いよなあ。ええ、セラピーには「ごっこ」「しりとり」「宝探し」が隠れています。それぞれ、心理的な働きが違う。初め2つは「要約」「連想」のバリエーションですね。対象の特徴を「要約」して模倣するのが「ごっこ」。相手の反応に「連想」を加えていくのが「しりとり」。内容じゃないです。形式です。方法論。そこから分類すると、要約と連想になる。アスペルガー症候群を抱えている人たちが苦手とする、模倣とターン・テイキング。それが、この2つの遊びに潜んでいる。
最後の「宝探し」はなんでしょう? ある/なしの遊び。Fort-Da。存在とは何かを問いかけていて、もう一段深そう。これは考えさせられる。「宝探し」は「いないいないばー」や「かくれんぼ」。他者の眼差しを巡る実存主義哲学を、子どもたちは遊びの中で反復し、何かをつかんだ者からこの遊びに飽き、大人になっていく。何を見つけるんだろうね? これは難しいや。