精神科医は腹の底で何を考えているか

精神科医は腹の底で何を考えているか (幻冬舎新書)
精神科医は腹の底で何を考えているか (幻冬舎新書)春日 武彦

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やっぱり面白いなあ、春日武彦先生。「私のところに来れば、必ず治します」という熱血医師とはまったく反対のスタンス。精神科医がどれだけ邪悪で、陰険で、無力で、虚栄心の強い存在かを淡々と描く。まあ、精神科の日常ですな。精神科にはスーパーマンはいません。ズバッと問題解決してくれるような、切れ者の医者(や看護師や心理士)はいません。そんな才能があるなら、最初から外科か内科か、大学教授になってます。駄目な連中だから精神科で働いてるんです。あまり期待しないでください。
とまあ、基本は「とほほ」漂う暴露話ですが、実にこの先生、治療が上手い。なぜなら精神科医療は、治療者と患者という構造上の上下関係と、駄目な人間同士が出会う対等な関係。その2つが錯綜する二重構造になっていることを意識化してるからです。この2つの水準に同時にアクセスしてるから、こんがらがることもなく、こじれた「糸の塊」をほぐすように付き合っていける。あちこちに、そんなコツが(ときには反面教師の実例を挙げつつ)散りばめてある。ウィニコットの「なによりセラピストは、どんなに無様であれ、生き残ること」の命題、good-enoughのポジションをさらりと見つけている。
初めはちょっとうざかったんですよ。自分の臨床の様子を描く地の文に、時折「自殺予告の電話に、脱力系で臨む医師」とか「身の危険を覚えつつも、安月給で黙々と夜中の精神科救急に携わる医師」とか注釈が入る。いろんな医師の姿(たいていは春日先生自身)を100個並べてパターン化してる。ほとんど冷笑に近いうざさがあります。でもこれこそ、春日先生らしい。文章を書きながら、それを突き放した「読者レベルの視線」を自分の中に持っている。二重化している。これが間違いなく、強みですね。
この本は、もしこれから精神科に行かれようと言うのなら、読んでおいたほうがいいですよ。患者として行く場合でも、心理士として行く場合でも。まず、どちらの場合でも「ひどいこと」が待ち構えてますが、あらかじめ心積もりしておけば「ああ、やっぱり」で済みます。その代わり、精神科には良い面もあるんです。ええ、たぶん、あるんです。えっと、何があるだろう? すぐには思いつかないけど・・・(笑)。


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援助者必携 はじめての精神科春日 武彦

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もしうっかり病院に勤める場合は、これ読んどいたほうがいいです。治療スタッフとしての、最低限の心得が書いてあります。患者さんのタイプ別の対応法が書いてあって、「型」としてこなせるようになります。不真面目だって? いえ、それは反対。まず「型」で出会うことで、混乱せずに済む。自分の誠実さを発揮したいなら、混乱してちゃあ、お役に立てない。どんな悩みも畢竟は「生きている価値がない。死んでしまおうか、誰かを殺そうか」なのです。その現場に立ち会っても、混乱せずにいること。それは「善意」だけでは出来ません。