コンサルタントの道具箱

コンサルタントの道具箱
コンサルタントの道具箱ジェラルド・M・ワインバーグ 伊豆原 弓

日経BP社 2003-07-29
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ライト、ついてますか』で有名なシステム・エンジニアの神様ワインバーグ氏。でも、昔はシニカルで、読んでいるとニヤッとさせられることが多かったのですが、この本はもう円熟期に入っていて、ブラック・ユーモアが当社比50%減。その代わり、ほんのりさせられる文章が増えました。
ジェラルド・ワインバーグという人は、家族療法家バージニア・サティアのお弟子さん。システム療法のテクニックを使い、会社経営やプログラミングのコンサルタントをしています。それで、自分がこれまでに使ってきた「考え方のツール」を後輩たちのために披露してくれている。こいつがいい。勇気の棒や願いの杖、魚眼レンズ、砂時計。16種類の「道具」が並んでいる。よくあるハウツー本ではないですよ。自分が困難にぶつかり潰れそうになったとき、かつて自分が困難を乗り越えたときに握りしめた「木の枝」をもう一度握りしめる。実際の、木の枝です。それを自分にとっての「勇気の棒」と名付ける。そして、勇気とは何か、臆病さとは何かを自問する。「勇気は気持ちではなく見かけである」や「慣例に従うのならコンサルタントは要らない」といった法則が導き出される。軽いエピソードに合わせて書いてあるけど、どれも重い言葉です。それがその「木の枝」に命を吹き込む。そしてその枝を自分の「道具箱」に収める。
こうやって集められた道具たちを箱に詰め、ワインバーグ氏は教え子たちに手渡します。教え子が、彼自身のコンサルタントの道を歩んでいけるように。そして、その教え子たちも自分が教師となったとき、生徒たちのための「道具箱」を作り、最後のときにプレゼントします。箱を受け取ることが、研修終了の証になる。うーん、アムウェイ方式だな。お金を吸い上げないネズミ講。道具箱は、師から弟子に伝わり、広がっていく。
バージニア・サティアのエピソードも良いですね。若い頃のワインバーグ氏が「私にはこの仕事、向いていないのかもしれません」と嘆いたとき、サティアは一言「今のところはね」と添えた。たった一言で、ワインバーグ氏の人生を動かしてしまう。凄いし、怖いし、そんなことに僕たちは携わっている。言葉を磨いていかないとな。