渡辺式家族アセスメントモデルで事例を解く

渡辺式家族アセスメントモデルで事例を解く (家族ケアの技を学ぶ)
渡辺式家族アセスメントモデルで事例を解く (家族ケアの技を学ぶ)渡辺 裕子

医学書院 2007-09
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見立て。面接で情報収集しつつ、クライエントに何が起こっているかの仮説を立て、どこから介入していくか戦略を練ること。認知行動療法ではケース・フォーミュレーションと言う。当然だが、それは心理療法に限らず、どんな業種でも必要な技術。特に看護士さんらの間で好評だと聞き、この「渡辺式」を勉強してみました。糖尿病や進行性癌、老人性認知症にまつわる事例を挙げ、患者さんへのケアや家族へのサポートの糸口を探る。筋道立っているし、実践的な印象を受けた。
ただ、フローチャートに沿って検討していくと具体案が生まれる方式ではあるけど、手続きがごちゃごちゃしていませんか。どう読んでも、この手順で分析していくには、初めから「結論」が織り込まれているとしか思えない。渡辺先生自身の価値観を、困って相談してきたナースに押しつけてるだけに見えます。最初のステップ「個々の家族成員の心身の健康と生活上の問題を明らかにする」でつまずく。なぜ「その問題」に着眼するかが主観的。理由は分かりますよ。後で、それぞれの家族が取っている行動を説明しやすくするため。だったら、僕ならこういうチャートにしない。実際のアセスメントには6つのステップが必要になってるけれど、介入方法を決めるのに必要なのは後半の3つだけ。その3つに話を限れば良い。たとえば、こんなふうに。


1)Action: 三者間の行動に絞り込む。
結局最後はナースが動くのだから、ナース・患者・家族の「三角形」を描き、それぞれが実際に行っている、相互の「行動」を書き入れる。「行動」から入るのは、客観的に観察可能だから。そして「行動」のやり取りから、密着関係と疎外関係を割り出す。


2)Background: 行動の背景を考える。
分析者は、三者それぞれの立場になって「なぜこうした行動を採っているか」の理由を埋めていく。何がストレス源で、どういう気持ちになっているのか。渡辺先生は書いてないけど、たいていの事例は、この三者間で「感情」を共有してますよね。「先が見えない」とか。状況に対し同じ感情を起こしながら、それぞれが別々の対処策を採っている。そこを明らかにすると、後の介入が楽です。


3)Care-taking: ナースの行動指針を決める。
行動を変えるのは「自分」から。ナースが密着関係に巻き込まれているなら、疎外された立場にある人と関係を築けば良い。このアクションを起こすだけで、三者間のバランスは改善する。ナースが疎外関係にあれば、それはナースが自分の価値観にしがみついているから。その場合は考え方を変えれば良い。患者か家族のどちらか、共感しやすい人のほうに労りの言葉を掛ければ、この関係性は動き出す。


つまり、ナースの持つ「理想的な治療関係」や「理想的な家族関係」という思い込みが閉塞状態を産み出している。そこに気づけば、状況は打開されます。実際「病い」に苦しんでいるのは患者さんや家族。医療が出しゃばってはいけません。そして三者間のバランスが回復したとき、次に役立つのが「渡辺式」の前半だと思います。