バーンアウトの理論と実際

バーンアウトの理論と実際―心理学的アプローチ
バーンアウトの理論と実際―心理学的アプローチ田尾 雅夫 久保 真人

誠信書房 1996-01
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燃え尽き症候群」という素人概念を、統計学的調査や臨床的経過の資料を集め、「バーンアウト」という学術研究にまで昇華した著書。久保先生の先駆的研究と言っても良い。
バーンアウト」は3つの「症状」からなる。一つは情緒的消耗感。やたら疲れ、情緒的な動きが停滞し、何をするにも億劫になる。二つめは脱人格化。人間関係が無機質的になり、人と会いながらも機械か何かを相手にしてる錯覚に陥り、自分自身もただ役割をこなすだけに感じる。3つめは達成感の低下。何をしても成果が上がらず、凡ミスを繰り返し、無力感に苛まれる。この3つを測定し「バーンアウト」を際立たせることで、特異的な症候群であることが浮き彫りにされている。医学概念でないため、病院に行けば「うつ病」の診断名に埋没してしまうが、明らかに「うつ病」ではない。あるタイプの労働環境に特化して起こる「風土病」である。
看護士、教師、そして心理カウンセラーさえも、この「労働環境」に含まれる。感情労働職。自分の感情をコントロールしながら、他者の援助に当たる職業全般がこの職種。共感的で献身的な性格の人ほど,職に就いて3、4年の間に「バーンアウト」を経験する。この乗り越えに失敗すると、急に人間味の欠けた応対をし始めるか、規範意識が低下するか、あるいは出勤することに恐怖を感じる。有能な人ほど脱落する。怖いことだ。
これを個人の病理として扱うのは間違っている。というのは、乗り越えに成功した事例を拾い上げると、そこには個人の要因よりも、その職場でのネットワークのほうが大きく機能しているからだ。互いのソーシャル・サポート。つまり、チームで動く職種のように見えるが、その実、個々に孤立しながら働くことになりやすい。それが、この「感情労働職」の性格。その点を意識しながら職場経営されているかが「バーンアウト」防止の鍵となる。
読んで思ったのは、これは「大人の話」に限らないということ。たぶん、今の子どもたちも同じ環境に置かれているのではないだろうか。クラスメイトの顔色を窺いながら、イジメのターゲットにされないよう戦々恐々と過ごす毎日。彼らの「不登校」や「学級崩壊」には、このバーンアウトも一役買っていると見てはどうだろうか。