開かれた小さな扉

開かれた小さな扉―ある自閉児をめぐる愛の記録
開かれた小さな扉―ある自閉児をめぐる愛の記録バージニア・M. アクスライン Virginia M. Axline

日本エディタースクール出版部 2008-01
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遊戯療法入門に最適な本を探してたら、灯台下暗しでした。バージニア・アクスライン。遊戯療法の創始者である彼女が書いた「物語」。5歳の男の子との面接記録。症例ディブス。小説仕立てで、読み応えがあります。
アクスライン自身は、この少年の「診断」はしていません。訳者は「自閉児」としていますが、これは勇み足。1964年段階では「自閉症」に該当しない。カナー型ではありません。でも初回セッションで、絵の具の名前を言いながら順に並べては崩すことを延々と続けたり、「僕」と「あなた」の指示代名詞が反転した言葉遣いになっているので、今なら「自閉症スペクトラム」と判断されるでしょう。なのに、セッションはたった20回。週一回のセラピーで半年ほど。それだけで、表情が豊かになり、友人が出来、学校生活に溶け込めるようになる。なんか、とんでもないなあ。僕がやると、ゆうに3年は超えますよ。「お前のプレイセラピーは間違っている」と言われている感じがします。なんでこんな劇的な変化が起こるんだろう?
まず、アクスラインは子どもと一緒に遊んでいません。「ジャージ着て、スポーツして、ストレス発散」なんてものは遊戯療法ではない。アクスラインは横でメモを取っている。遊びに加わったりしない。これが「遊戯療法」なんですね。といっても没交渉でもない。子どもに湧いてくる「気持ち」を汲み取りながら、質問したり提案したりしている。終了時間が来れば、断固とした態度で退室を促す。泣こうがわめこうが、揺るがない。「受容」は「甘やかし」ではない。むしろこれをチャンスとして、そこにある「悲しさ」や「淋しさ」に目を向けていく。だから、「爆発」という形で不快感を発散していた子が、自分の気持ちに近づき始め、それを表現することで情動コントロールを身につけていく。自発性と責任感が子どもに生まれてくる。
このセラピーを通り抜けると、他の人たちと折り合いを付ける「社会性」が芽生える。それは当り前で、他の人と交流するスキルは、自分自身と交流するスキルと同型だからです。SSTの技法と、フォーカシングの技法。比較してみたら分かりますが、対象が違うだけで、やってる内容は同じ。アクスラインの凄いところは、そうした「交流スキル」を彼女自身にも自然と使っていることですね。子どもとの関係にも使っているし、自分自身に湧いてくる感情に対しても使っている。彼女自身、心の扉が「他者」に開かれている。
統計を用いた研究では得られないものがある。ホームランバッターのデータを集め平均を取ったところで、ホームランが打てるわけではない。読んで良かった、と思える本です。自分が思い違いをしていた、と気づかされます。このことが、これからの自分のセッションで活かせると良いなあ。