合気道とラグビーを貫くもの

合気道とラグビーを貫くもの 次世代の身体論 (朝日新書 64)
合気道とラグビーを貫くもの 次世代の身体論  (朝日新書 64)内田 樹 平尾 剛

朝日新聞社 2007-09-13
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ふたりはマージャン友だち。レヴィナス好きの哲学者内田先生と元日本代表ラガー・マンの平尾選手とで、あーじゃこーじゃ対談してます。二人ともスポーツの指導者でもあるのでスポーツ論中心ですが、「私とあなた」という二人の場で起こることをどう制御していくかという対人技術論としても読むことが出来ます。キーワードとすると「格闘技」。一人ではどうしようもない。相手の力を借りて自己実現を図る。なにしろ、ポン・チー・ロンで進む、マージャン友だちですから。
ポイントは「松尾さんを大絶賛」かな。往年の釜石の松尾選手。カッコ良かったですよ。身体が大きいわけじゃない。なのに華麗なステップで巨漢の外人選手をかわしトライする。なぜあれほど美しいステップが踏めるのか。そうそう、ここで「なぜトライが出来るのか」という問いにしないのがこの二人のエロいとこ。成果は結果でしかない。何かをしたことの副産物が「成果」なのに、世の中その成果を真っ先に目指すような真似をするから撃沈する。成果は僥倖です。たまたまです。松尾選手はトライしようとしてるのではない。じゃあ、何をしてるか。
それが「スキャン」。フィールドを、その上空から眺めるようにイメージし、手薄なところへと身体を運ぶ能力。これもまた「離見の見」ですね。なぜスポーツがどれもイギリスの名門校を発祥としてるのか考えたら、答は分かります。「競争」ではない。「筋力」でもない。そんなの、貧乏人がすることです。イギリス貴族の「お坊ちゃまたち」ですよ。もう何もかも手に入れている。学校で学ぶべきは「集団を統率する能力」。それは「競争」では身につかない。勝ち残りのエリートでは出来ない「全体を思いやる視点構成能力」。それが「スキャン」です。
合気道のことが書いてない」とレビューにあるけど、ずっと内田先生の持論をしゃべってて「合気道」の話しかしてないように見えるんですけどね。合気道は相手を投げ飛ばすのではなく、相手が気持ちよく投げられるように持っていく技芸である、と。それを他のスポーツや哲学に託し、メタファーにして、熱く語っている。そして平尾くんがその言葉に、あまりに気持ちよく投げ飛ばされている。そんな対談です。
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