セラピストの技法

セラピストの技法
セラピストの技法東 豊

日本評論社 1997-09
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おすすめ平均 star
starシステムで考え、システムを見て、システムに介入していくということの意味をありありと実感させてくれる本
star一気に読ませる
starセラピスト必見の書である

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これ、システム療法かと言うと、ホントは嘘だよなあ。ジェイ・ヘイリーの戦略的心理療法です。高石昇先生譲りのね。ストラテジーの入門書として最適。
カウンセラーは傾聴してナンボではあるけど、それは介入とセットになって意味をなします。どんなセラピストも「介入」はしてるんですよ。沈黙であれ、解釈であれ。でも「戦略のミスは戦術ではカバーできない」の諺どおり、小手先のスキル(戦術)は、戦略レベルを考え抜いてないなら、何療法を使おうが効果はありません。じゃあ、戦略とは何か? それがこれの理論篇に書かれている「枠組み」の話です。人間は、生半可、脳みそが発達してしまったために、何か壁にぶつかると「原因探し」をします。「親の育て方が悪かったからだ」とか「発達障害があるからだ」とか。「原因」は探せば探すほど、今の問題を「説明」してくれるため、「問題」が無くなることはありません。当り前じゃないですか、「原因」があるんだから。人は自分の「説明」が正しいことを証明するために「問題」を維持する方向に努力し、泥沼に陥ります。「原因」に基づいて「対応策」を考えるから、その「対応策」が空回りする。こいつが「枠組み」ですね。
だから、この「枠組み」を気持ちよく捨てれる「説明」をちょっと放り込んでみる。「原因」を考える説明ではなく、自分がぶつかった「壁」をよく観察してもらうための説明。その「説明」は、フロイトの時代ならフロイトの理論が効果あったのでしょう。スキナーの時代はスキナーの理論が役に立った。だって「無意識」や「条件反射」という虫のしわざだったわけだから、個人には何の責任もない。東先生のやっている虫退治と同じことが出来たわけです。でも現代は、幸か不幸か、今度は「無意識」が常識になってしまった。「無意識」を「原因」だと見てしまってる。それが現代人の「枠組み」になってるなら、それとは違う「説明」じゃないと効果は出ない。でも、ただ「違う説明」を提示しただけだと、相手は信じてくれない。そこで対決技法を使ったり、ナラティブを使ったりして、戦術レベルでの工夫が入るわけです。ダジャレで相手を笑わせながらね。
そういう意味で、戦略と戦術の区別をしながら読んでください。「システム信者」になっちゃ、元の木阿弥くんです。