思春期の子どもの心のコーチング

思春期の子どもの心のコーチング
思春期の子どもの心のコーチング菅原 裕子

二見書房 2007-05-24
売り上げランキング : 46065

おすすめ平均 star
star遅すぎると諦めることはないけれど、早い方がいい。
starラストチャンスを逃してはいけない

Amazonで詳しく見る
by G-Tools
日本のコーチング関係で信頼の置ける人は二人くらいかな。一人はディスカヴァー21の伊藤守先生。もう一人がハートフル・コミュニケーションの菅原裕子先生。コーチングの根本は、創始者ティモシー・ガルウェイの頃から「離見の見」。つまり、「心の中のコーチ」というか、「自分の状況を見ている自分」を心に住まわせながら、その「コーチ」が「無」になって「自分自身」に100%の信頼を置いている状態を作り出す技術。まあ、もとがテニス・コーチの考えた「テニスをしながら無心になる方法」だからね。「禅」なんだよ、これ。テニス禅。そりゃあ、考えたら分かることだけど、「心の中のコーチ」が口うるさい奴だったらどうだと思う? うるさ過ぎて試合に集中できないよ(笑)。そして試合に負けたらまた口うるさく罵られるの。大変だね。
子育ても同じこと。子どもの心の中に住む「親」や「教師」が口うるさかったら、子どもは勉強に集中できない。野球の練習にも集中できない。遊びにも集中できない。生活全般に集中できない。集中できないのに、あれこれ能力が伸びるわけがない。まったく。思春期までの子どもは、半分はその「心の中のコーチ」に左右される。残りの半分はその子の資質だろうね。「自分自身」のほう。だって「親」の言うことなんて話半分に聴いてる子もいるわけだから。
でも、思春期に入るとこの図式が壊れるわけよ。「心の中のコーチ」を殺す時期が来る。仏に遭えば仏を殺し、祖師に遭えば祖師を殺す。菅原先生も「自立」と「自律」と書いてるけどね。思春期は「自律」のほう。心の中から「親」に出ていってもらい、自分が自分の「コーチ」になる。この時期は、周囲には何もできない。この時期は「親の子育て」のせいに出来ない。「自分育て」の段階に入ってるからね。周囲はハラハラする以外に何もできない。本人も何をしたら良いか分からない。コーチ不在の時期。やたら眠くてだるくて何もかも投げ出したくなる。それこそが、進むべき発達の道を歩いている証。
この本の良いところは、前作「子どもの心のコーチング」ほどのキレがないことだな。言ってることに一貫性がない。論旨がぐちゃぐちゃしてる。良いことだと思う。だって、親にとっては何もできない無力な段階だから。それで良いのです。終わりのほうでマズロー欲求段階説が出てるけど、これ、心理療法でも大切なことです。心理療法も、安心感→相互交流→能動性→自己表現→他者への貢献の順に展開します。子どもの遊戯療法でも、大人の面接でも。ちょっと自分のケース、振り返ってみてごらん。ミクロでもマクロでもこの順になってないかい?
そんな感じに「自分」を振り返ることが「離見の見」。super-viseの本来の意味なわけです。コーチングとはスーパーヴィジョンのこと。知らんかったでしょ?(笑)