精神療法面接の多面性

精神療法面接の多面性―学ぶこと、伝えること
精神療法面接の多面性―学ぶこと、伝えること成田 善弘

金剛出版 2010-09
売り上げランキング : 120197


Amazonで詳しく見る
by G-Tools
人格障害論の第一人者、成田先生。本当に真面目で誠実な人だと思う。患者さんと真剣に向き合いながら、振り回されながら、揺れながら、それでも肩から力が抜けたような生き方を患者さんにプレゼントできている。
成田先生は臨床家だから論文を多産する人ではないけど、それでもお人柄か、エッセイ的な書き物を頼まれることは多くて、それを集めてみた本。今までの精神医学の歩みを、自分自身の人生に重ね合わせて振り返っておられるので、いろいろ参考になります。はにかみ屋で内気な、いつも何か思索しておられた先生のお顔が、行間から浮かんでくるようでした。人格障害に関する考察、強迫性障害についての知見、解離に対する考え方、いずれもクリアでありながら深く、年を経るごとに先生の治療論が変遷していく様子も実践的で、我が身を振り返り反省すること頻りでした。
それとお年を召して、愚痴っぽくなっておられますね。理屈だけ捏ねて外に出ようとしない精神科医や臨床心理学者とか、身近にいるのでしょうか。話をしているうちに、段々と虚しさを覚えるだろうと思います。でもそうした「こころの専門屋」は「大学から出たことのないアカデミスト」ですから、ご安心ください。この仕事は光の当たらないところで働いてこそ、会うべき人たちと出会えるものです。論文の本数を「業績」と呼ぶ世界とは正反対。笠原先生を師と仰ぎ、今もご一緒にクリニックで臨床を続けておられる先生を、僕は素敵だと思います。