精神分析体験:ビオンの宇宙

精神分析体験:ビオンの宇宙―対象関係論を学ぶ立志篇
精神分析体験:ビオンの宇宙―対象関係論を学ぶ立志篇松木 邦裕

岩崎学術出版社 2009-04
売り上げランキング : 204554

おすすめ平均 star
star思考の発達
starその理論以上に理念に、はっとさせられる本
star精神分析を学ぶ者の必読の書

Amazonで詳しく見る
by G-Tools
ビオンの解説書は数あれど、きちんと日本語になっているのはこれだけ。まあ、松木先生だから仕方ないか。
精神分析家ビオンの面白さは、すごく醒めた視線にあると思う。インド育ちの人だからね。個々の「人間」に囚われていない。その場に流動する「何か」に目が行ってると思うんだ。そいつを「気」とか呼ぶとバカだけどね。呼んだ瞬間になんか分かった気になっちゃうから、何も分かってない頭のまま「思い込みの世界」に呑み込まれてしまう。「何か」、つまり「究極のO」としか名付けないようの無いものを観察し続けると、これだけ豊かな世界観が構築できるという好例だ。愛憎渦巻く世界を、どこまでも知性で繋がることの可能性に賭けた人、ビオン。
前からマトリックスが分かりにくかったけど、今回ふと思ったのがピアジェの発達段階。これマトリックスの縦軸を「感覚運動段階→観念思考段階→前概念段階→具体的操作期→形式的操作期」と置き換えてみることができそうだ。横軸はあれだね、仏教の「五蘊」くらいに見立てたら良いや。入力された情報が加工されながら行為として出力される。そういう、面接室で語られていること・演じられていることを読み取る「治療展開早見表」だと思えば、このマトリックスの意味が伝わる気がする。
病理を「個人の内界」に還元するのではなく、来談者と分析家の出会う、この場の現象として扱う。こうした「関係性」という視点が20世紀後半に起こってきた。それはベイトソンラカンの功績だと思うけど、ビオンも仲間に入れてあげて良いよ。