自我心理学の新展開

自我心理学の新展開―フロイト以後、米国の精神分析
自我心理学の新展開―フロイト以後、米国の精神分析妙木 浩之

ぎょうせい 2010-03-01
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どの論文も重箱の隅でつまらないものばかりだけど、妙木先生のだけは光ってるな。ちゃんと全体像を追いかけていて、そこに「物語」を見ている。
正直なところ、アメリカの精神分析は面白くない。早い時期に国家公認となり、とても常識的な体系を作り上げてしまった。「自我が本能をコントロールする」みたいな道徳観。「理性」を「自我」に置き換えただけ。これって、キリスト教がローマの国教になったのと同じだよ。米帝が精神的なバックボーンとして「精神分析」を取り入れ、多民族国家を統治する共通言語にした感じ。何教徒であっても、精神科に行くと分析用語で「治療」される。その用語体系の「正統派」として「ハルトマン−ラパポート軸」を設定するアイデアはさすが物知りな妙木先生。ナチスの殉教者としてフロイトを祭り上げながら、その理論を説明するときには実験心理学脳科学の知見を使う。そういう「アウグスティヌス的」な自我心理学。前頭葉に自我機能がある、とか。そんな言い換え、面白い?
よく、ものを知らない人が「精神分析なんてアメリカの心理士は誰も使ってない」とか言うじゃない? 当り前だよ。精神分析家になるには医師の資格が要るんだから。昔も今も「文系の心理士」に分析家資格が与えられるわけが無い。あと「精神分析にはエビデンスが無い」と言う人もいるけど、なんだかなあ。アメリカの学習理論はフロイトの理論を動物実験で証明したものだし、保険会社がうるさい国だから臨床効果のエビデンスもすでに揃っている。今は因子分析の段階に入ってるそうだ。いやあ、本家も重箱の隅つつきまくってるわ。早く滅びないかね。
日本でも国家資格がどうのと言ってるけど、国家公認になってごらん。アメリ精神分析の二の舞さ。まだアメリカは「異端」とされても、対人関係学派や自己心理学認知療法のように、充分存続できる後継者とクライエントに恵まれている国。人口が多いから。でも日本で「異端」とされたら、その理論は生きていけないだろうよ。