セラピスト誕生

セラピスト誕生―面接上手になる方法
セラピスト誕生―面接上手になる方法東 豊

日本評論社 2010-02-25
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システム療法家、東先生の授業風景。これ、嘘ですね。東先生はべたべたの関西弁で喋るはずです(笑)。こんな標準語じゃ、関西ではジョイントできないよ。なまで先生の芸を見られる生徒さんたちはしあわせだな。
さて、そろそろ還暦も近づき、「システム」のセールスマン役は飽きたらしい。ご自身の臨床を可愛い後輩たちに伝えたいという老婆心が出てきてるね。相変わらず「症状処方」で勝負はされるけど、そこに力点は無い。あるのは「肯定的関心」です。「P要素の循環」みたいな理屈をつけても、そうではない。来談されている人の「善意」や「苦労」が透けて見える、ということです。見えちゃうから、家族を責める気持ちはとんと起こらない。
ロジャーズの言う「関心」は「regard」だからね。「眼差し」であるし「敬意」である。「それが自然と湧いてくるには、どういう姿勢でクライエントと会えばいいか」という謎なぞです。どのセラピストもその難問に人生を賭けている。まず初心の頃にはそんなもの、湧かない。だって人生経験が無いんだから。自分も家族を持ち、子育てをし、後輩に技芸を伝え、老いて老眼と物忘れに困り始めてやっと「生きること」への畏敬の念が湧いてくる。
ただそれでは遅い。現場に出たときから「老成」してないといけない。そのために先人の「臨床年齢」を借りるわけです。何派でもいい、先人が作った「○○療法」をツールとして借りる。登山の「杖」として。やがて、その「杖」が擦り切れ、ボロボロになり、跡形も無く消えたとき、○○療法家は「ただの臨床家」となっている。面接の流れに呑み込まれても、悠々としている。かならず、落ち着くところに落ち着くと知っているから。
まあ、そこまでの道のりは遠い。他のはともかく、東先生のこの本は、これから臨床に進む後輩たちの「杖」として素晴らしいものになってます。