ブリーフセラピー講義

ブリーフセラピー講義―太陽の法則が照らすクライアントの「輝く側面」
ブリーフセラピー講義―太陽の法則が照らすクライアントの「輝く側面」若島 孔文

金剛出版 2011-11
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若島先生、東北のほう、大変そうですね。ご無理なされないように。
さて、システム療法の土着化というか、日本に根付かせるためには、まず自分にとって使いやすい道具にカスタマイズしないといけない。そのために若島先生が持ち出してるのは柳生新陰流。なかなか良いセンスと思います。日本人って俳句好きだな、と思う。本質を捉えて短い言葉にするのが好き。仏教の巨大な体系を「南無阿弥陀仏」で済ませたり、ロジャーズの複雑なストランズ理論を「受容と共感」で収めたりする。換骨奪胎。元のものとは別物になっても、それに効力があるならそれで良い。分かる人には分かる。分からない人は、たとえ原典を網羅しても分からない。だから、短くて良いのです。結局は、その言葉を吐いた人間が自らの背骨とし、現実と向き合うための武器なのだから。
それで、若島先生の俳句は「太陽の法則」。本文中に詳しい説明はありませんし、あまり使ってないんですけど「太陽の法則」。要はMRI派の「Do more / Do different」の二刀流を「Do moreだけで上等」と言い切るところにあります。Do differentのほう。つまり、今までやってなかったことをやらせようというのは、システム療法の原理からすると不自然。アドバイスされたことは、次の週までに守られている確率は低い。「あ、忘れてました」とか「そんなことで良くなるハズがないです」と言われる。それは、ホメオスタシス(恒常性)いう健康な部分なので、これを壊しても仕方ないのです。
だから、Do moreを使う。ただ、そのままでは現状と変わらないから、その行為の「輝く側面」を指摘し「今まで通りに続けるように」と指示する。リフレーミングと症状処方のコンビネーションになりますね。前に広島児相の岡田先生の本を取り上げましたが、そこにあった3つの治療論のうちの一つ。「クライエントの行っている対処法は肯定し、その対処法を裏付ける仮説は変えてしまう」という戦略。でも、岡田先生みたいに3つも要らない。一つあれば十分というのが若島先生の立場。これは臨床でブレないための戦略だな。
不登校の生徒のことで相談に来た先生が、その家の家庭事情を原因と考えているとき、「不登校の原因は学校ですよ。家が原因なら、学校に逃げてくるでしょ?」と言い切る。ここあたりが良い。もちろん、学校が原因なのではありません。「家庭が原因」と考えてる先生の仮説を崩してるわけです。その仮説だと、学校側には打つ手がなくなる。自分との関わりで、何を変えれば良いか。そう考えるところにしか解決の糸口はありません。そして、現在行ってる家庭訪問を「お母さんにエネルギーを与えるために行っている」と意味付けし直す。この介入で不登校は解消する。だって、そのお母さんが「学校から責められてるのではない」と実感し、協力的になってくれるから。三手先を読んでいる。
とはいえ、「さいごに」に書かれた基本原理が二つあるのは変ですね。それじゃ、二刀流のままじゃないでしょうか。僕なら「変化に気づけば、変化が生じる」という一句にするんだけど。ラカンの事後性のことだね。