複雑さと共に暮らす

複雑さと共に暮らす―デザインの挑戦
複雑さと共に暮らす―デザインの挑戦ドナルド・ノーマン 伊賀聡一郎

新曜社 2011-07-28
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ドナルド・ノーマンMacのインターフェースをデザインした、インダストリアル・デザイナーの神様みたいな人。道具を使いやすくするにはどうデザインしていけばいいかについて書かれてますが、哲学があります。読んでいると、高尚な思考に触れる喜びを感じる。
無骨に要約すれば「現実は複雑で、人間の意識はその複雑さを捉え切れない」ということ。だからといって、デザインをシンプルにすれば分かりやすくなるかというと、ならない。現実の複雑さとの間で齟齬を来すから。「簡単である」と「分かりやすい」とは両立しない。そのことを明確に言い切ってる人も珍しいんじゃないかな。
電車のデザインを頼まれたときのエピソードが、ノーマン氏の哲学を表してると思う。一般のビジネスマンは、利用客から苦情が来ると、その「ニーズ」に応えようとする。つまり、症状に対処しようとする。これをやってしまうと、現実が持つ複雑性に振り回され、煩雑なだけで使いにくいシステムが出来上がる。だから「ニーズ」には応えない。それには応えずに、そこにある、根本問題を見つけ出す。それがデザイナーの発想法だ、ということを実例で示していきます。
これは良質のシステム療法ですね。「社会」をセラピーする道具として「デザイン」が活用され、アフォーダンスやシグニファイアが活かされる。ファミレスで卵に塩を掛けようとしたら、容器に入っていたのがコショウだった。「失敗、失敗」と人は思うけれど、それは容器を透明にするだけで防げるエラーである。原発事故にしても、交通渋滞にしても、「仕方ないこと」ではなく、デザインの力によって防げる。ただ、デザインを軽視する態度が社会に蔓延していて、自ら首を絞めてるんだなあ、と思いました。